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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1112号 判決

理由

(証拠)によると、被控訴人主張の原判決事実摘示にかかる一、二の各事実並びに京都地方裁判所昭和三八年(ヨ)第三〇号の仮差押命令正本が第三債務者である被控訴人に送達された日は昭和三八年三月四日である事実を認めることがきる。

而して右差押命令正本が債務者である大和商事株式会社に送達された日が同年二月二〇日であることは当事者間に争ないところであり、右仮差押命令が控訴人を債権者とし被控訴人を第三債務者とする抵当権付債権を目的とするものである事実は前記甲第三号証により明かである。そして被控訴人主張の不動産に対する抵当権付債権の仮差押の記入登記の事実は弁論の全趣旨から控訴人において認めるものとせられるところである。

右事実によると、控訴人は訴外大和商事株式会社に対する債権の執行保全のため、右会社の被控訴人に対する本件三〇〇万円の抵当権付債権に対する仮差押命令を得て、被控訴人主張の抵当不動産に対する債権仮差押の記入登記は昭和三八年二月五日右命令正本の債務者大和商事株式会社に対する送達は同月二〇日各なされたが、右正本の第三債務者たる被控訴人に対する送達が同年三月四日になされる間に被控訴人が同年二月二四日債務者である右会社に右債務金の完済をなしたというのである。

ところで、民事訴訟法第七四八条第五九八条第三項によると債権の仮差押の効力発生の時は第三債務者に対する仮差押命令正本送達の時であつて(けだし債権に対する仮差押の執行は仮差押裁判所が執行裁判所として第三債務者に対し仮差押命令を発して執行するのであつて、この執行がない限り仮差押の効力は生じない)債務者に対する送達がなされても未だ第三債務者に対する送達がなされない限り、仮差押の効力は発生しない訳である。

以上は被差押債権が担保付なる(同法五九九条)と否とをとわず妥当し、たとえ本件のように第三債務者(被控訴人)に仮差押命令の送達前に本件不動産に対する前示債権仮差押の登記がなされた場合(同条三項は右送達後右登記記入の手続をなす旨規定する)でも債権仮差押の効力発生時期については結論を左右しない。従つて、第三債務者である被控訴人に対する本件仮差押命令正本の送達前になされた被控訴人の大和商事株式会社に対する本件弁済は本件仮差押の効力発生前のものとして控訴人に有効に対抗し得るものである。

右の理は、前記抵当債権仮差押登記のなされた時または債務者乃至第三債務者に対し仮差押命令が送達せられたときに偶前記不動産上に抵当権設定登記などが残存していても、異るところなく、被控訴人は右債務の消滅を控訴人に対抗しうるものである。

以上にていしよくする控訴人の当審における主張はいずれも独自の見解で採用できない。

そうすると、被控訴人の訴外大和商事株式会社に対する本件抵当付債務は右弁済により消滅して存在せず、右抵当付債務が存在するとしてなされた本件抵当付債権仮差押命令はその前提を欠き無効(内容に則した効力がない)で、その公示(広義の執行)としてなされた原判決添付目録記載の抵当不動産に対する債権仮差押の登記も無効であるから、右抵当付債務の不存在確認と右仮差押の執行不許を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、これと同旨の原判決は相当で本件控訴は理由がない。

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